木村哲治は、仕事の忙しさの中でも睡眠と人間関係を大切にする。焦らずに築く関係が、女子大生Sちゃんとの不思議な縁を生んだ。彼が求めるのは、金銭ではなく心の通じ合い。その真意とは──。
M&Aやら新規出店やら、私の本業の忙しさと担当編集氏との折り合いがつかず、最後の連載投稿から数カ月空いてしまった。だがそんな多忙の日々の合間を縫って、私、木村哲治はちゃんとやることをやっていた。
私がプライベートな時間の中で一番大切にしているのが睡眠時間だ。睡眠時間を削ることが仕事のパフォーマンス低下にもなるし、早死にの原因にもなる。そんなことは分かっている。妻子と離縁してしまった孤独な時間を埋めるために、女の子たちとの関わりを求めてしまうのだ。
しかし、あくまでもゆとりを持つこと。睡眠時間もそうだし、相手にボールをパスした時に待つ時間もそう。焦らないこと。
例えばキャバクラ遊びなんかでも、アフターを狙って閉店間際にやってくるような酔っ払った連中と違って、私は早い時間に現れ、10時頃にはきっぱりと切り上げるスタイルを貫いている。
その方が女の子たちを急かすこともなく、こちらも無理に焦ることもない。まるでワインを楽しむかのように、ゆっくりと時間をかけて関係を育んでいくことができる。ただし、私にとってキャバクラは主戦場ではなく、パパ活でスレていない女性とお話をする方が好きだ。
特に印象に残っているのが、去年の冬に大阪で知り合った女子大生のSちゃんだ。Sちゃんはアイドルのような見た目で、それでいてどこか親しみを感じさせる美人。
「皆んなが〜」とは言わないが、この頃は容姿が整っている女子大生がパパ活をするのは結構当たり前だったりする。だが、雰囲気から察するにSちゃんはパパ活をするような感じのスレた子ではない。話を聞いていると、どうやら彼女は経済的に困窮しているということが分かった。
「あんまり恥ずかしいから言いたくないんだけど……」
と前置きしつつ、学費を払えないから休学しようと思っていることを打ち明けてきた。訳あって両親に頼ることはできず、自分でアルバイトをして学費を稼ごうとしている。彼女の眼差しは真剣そのものだった。5年、6年かかっても卒業をするんだという強い意志も感じる。初めてその話を聞いた時、「偉いね。何かあったら相談しておいで」とだけアドバイスをしておいた。
それからしばらく経って、Sちゃんから「木村さん、お元気ですか」とLINEが入った。「ハイハイ元気ですよ」と返信をしてすぐに既読がつくやいなや、LINE電話がかかってきた。これはきっと相談案件だな。
Sちゃん「木村さん、前に学費のお話をしたことがあったじゃないですか。もうすぐ支払いで、期日までに振り込まないと退学になるっていう日があって」
木村「それでどうするの?」
Sちゃん「前回は親戚のおじさんに頼み込んでお金を出してもらいました。でも毎回は頼れなくて、どうしようって……」
そんな話を聞いたら出してあげるしかないだろう(笑)。12月の終わりが学費を払うデッドラインで、総額50万円のうち15万円ほど足りていないのだとか。それくらいの額、私にとっては朝飯前だ。15万円に少し色をつけて送ってあげることにした。3月、Sちゃんは無事卒業できたようで、卒業証書の写真をLINEで送ってきた。
この時、私は「その代わり……」と対価を求めることはしなかった。なぜか。ダサいからだ。
金くれ虫な女性と関係をもったところで、金の切れ目が縁の切れ目。お金を出さなくなった途端に「私、あなたとはもういいんで」とか言ってくる。お金を払った代償に体を求めるだけの関係性はハッキリ言ってもう虚しいと感じる歳になってきつつある。
Sちゃんとどうなったか聞かれれば、答えは「どうもなっていない」。Sちゃん以外にも同時並行でいろんな女性とやり取りをしているので、私はまったく焦っていないのだ。だが、そのせいもあってか、何かにつけて相談をしてきてくれるし、頼りにされている感はある。もっと話し合って心が通じた時にそういう関係になれればいい。
パパ活でも人の役に立つというのは、本業の成功とはまた別の悦びがあるのだ。
原案・木村哲司(仮名)
「さてこれから第二の人生を始めよう」。仕事はデキるが、幸か不幸かバツイチになり、金と時間を持て余してしまった40代の某パチンコホールオーナー木村哲司は、今日も夜会を求めて街を彷徨う。実在する人物の実体験をベースにしたファクション新連載。(文・PiDEA X編集部)
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