全国のホールで流行になっている「共闘」。
実施店舗は稼働が上がるだろうが、運営者視点で重要なのはその後の稼働に影響しているかどうかだ。マルハン蒲田駅東店とベルシティ ザシティ雑色店(以下ベルシティ雑色店)は、「大田区活性化計画」という名称で共闘を4月30日に実施し、5月30日、6月30日、7月30日にも実施した。ベルシティ雑色店のデータを見ると、稼働面で明確な効果が出ている。今回は改めて、〝共闘のその後〟を追う。
雑色という地の説明は、駅の乗降客数で例えるのが分かりやすい。
1日の乗降客数約2万4000人の雑色駅(京急本線)に対し、東京方面に一駅行けば1日の乗降客数約12万人のJR蒲田駅が。神奈川方面に一駅行けば1日の乗降客数約18万7000人のJR川崎駅がある。そんな地域にある300台規模の駅前店がベルシティ雑色店である。
雑色駅を出て、目の前のアーケード商店街の中で、ベルシティ雑色店は16年間営業を続けてきた。かつて近隣には複数の店舗が林立していたが、今では同店とPIA雑色店の2店舗だけになってしまっている。
なぜか。ユーザーの多くが蒲田や川崎といった大型駅の市場に集約されてしまうからだ。その中で、ベルシティ雑色店が取れる戦略は足元商圏を大事にする方法しかなかった。だが、それも4月30日からマルハン蒲田駅東店と「大田区活性化計画」を始めるまではの話だ。共闘を始めて以降、ベルシティ雑色店には少し変化が起きている。
同店は元々、広域からの集客は考えておらず、地元客に愛される店舗づくり。その方針は今も変わっていない。周年などの前後日に出すという癖のある営業スタイルは、常連ユーザーには浸透していた。台あたりで平均600枚を超える大盤振る舞いを平日に行っておきながら、その事実を外部発信することはあえてしてこないできた。その理由について小見昌誉店長はこう話す。
「もともと求められている計画に沿わなくなってしまうからです。エリア外から集めた時に、出さないで裏切るくらいだったら外部発信はしないでおこうと」
出す時には出すが、一見客にはそれがいつになるか分からない。それゆえ、X上では「不気味な店舗だね」などと評されることもあった。
しかし、足元さえしっかり確保できていれば経営は十分に成り立つ店であった。ベルシティ雑色店単体というよりは、系列の旗艦店に予算が割り振られる中で、そちらに投資をするためにはどこで補うかということを考える必要のある店舗。それがベルシティ雑色店のかつての姿であり、小見店長自身もその方針での営業に誇りを持っていた。
そこから共闘を経たことで、ベルシティ雑色店に起きた大きな変化が稼働である。下記のグラフは、小誌の調べでベルシティ雑色店の月間のパチスロ平均G数の推移を表したものである。2024年6月は平均2931G。2023年6月は平均2412Gとなっており、昨年同月対比で519Gの増加となっている。
「稼働は上がっていますね。特定日なんかもそうですが、特に週末が変わってきているように感じています。毎年6月は5月に比べると稼働が下がるのですが、今年は5月よりも6月の方が上がっています。月間でIN枚数が1200枚ほど変わりました」(小見店長)
2024年4月の平均G数が2657Gだったのに対し、共闘初回の4月30日は4585G。5月平均の2745Gに対して5月30日は4546G。同様に6月30日は5619Gと稼働のピークをつくることに成功。こうした日に来るユーザーは、地元客を大切にしてきた同店に普段来ていなかった層だと考えられる。エリア外からの広域集客を共闘という形で実現することはできたが、変わらずに地元常連客を大切にしたい同店にとって、これは嬉しい反面誤算でもあったという。
7月3日の周年日な広域からユーザーが集まったことで、開店1時間前に抽選打ち切りとなり、地元常連客の多くが抽選を受けることができなかったという。ただし全体的な増客には成功しているため一長一短といえよう。
一方、このご時世で稼働にも影響が大きいのがSNSの運用だ。共闘以降、他店の店長とよく話をするようになり、新しい発見や学びを得た小見店長は、SNSの重要性にも気付き、店舗アカウントとして運用していたものを自ら「店長X」として運用するようにもなった。
「第2回目の共闘となった5月30日の営業があまりに出なかったんです。僕はSNS自体初心者だったので、『全然出てねーじゃねーか』とDMが送られたりしてきてSNSって怖いなと思っていたのですが(笑)、当日はもちろん自信のある配分は組んでいました。ただ、今のパチスロはシミュレーション通りにいかないこともあります。その不甲斐なさもXで吐露してしまってから、なぜか注目が集まるようになってしまいました(笑)」
同店がX上でユーザーから注目されるようになったのは、5月30日の次の日、31日に台あたり1000枚以上の差枚を出したことが大きい。小見店長のエモーショナルなポストと連動するかのような営業の仕掛けで、「不気味な店舗」から「何かやらかすかもしれない店舗」という見られ方に変わった。SNS上には存在していないも同義だった店舗が、常に注視するべき店舗に変わったのだ。これ自体は5月31日以降からだが、その大元になったのは共闘の影響が大きい。
「せっかくここまで出玉を出したのに元の状態に戻すのはもったいないと思って、Xをやるようになったり演者さんを呼んだり仕掛けをつくったり営業のスタイルが変わりました。以前ももちろん稼働をつけたかったのですが、状況を考えるとどうしても利益を安定させる営業になっていました。ただ、今は利益額を変えることなく月間平均稼働が上がっているので、むしろコイン粗利を下げて営業できます。毎月の予算はしっかり達成した上で5月31日のような仕掛けができるようになってきました」
好循環に入ってきてはいるが、まだまだ課題はある。7月8日にパチスロを増台したが、「増台したところで120台なので正直全然足らない」と今の時代にあった機種戦略を充実させたいと小見店長は話す。
同店は共闘によって明確に変わった。変わったのはお店だけではなく店長自身の考え方もそうだ。今までは「正直この地域だしなと半分諦めていました」と高みを目指すことはなかったが、同じエリアで営業をする他店の店長とのつながりで考えは変わった。
「何もやらないで守りの営業していたら衰退していくだけだと思うようになりました。1日の営業の数字のつくり方とか、仕掛けの方法を日々勉強させてもらい、自分がバージョンアップできていることを感じます。数字を上げるために何をしなければならないか。頭では分かっていたけどやっていなかったことばかりです」
小見店長は、8月まではこの流れである程度上手くいくと見ている。9月以降業界全体が下降気味になることも加味すると、鍵となるのは8月でどれくらいピークを打てるか。目指すは前年比130%。同店にとって共闘は、大きな変化をもたらした。