5月の中旬に漫画家の水上悟志さんが「自分の作品に関してパチンコ・パチスロ化は基本的に許可を出しません」という内容をご自身のXでポストをされました。
パチンコを愛する者としては「そんな手厳しいこと言わないでー」と一瞬思いましたけど、作品は作った人の物だと思いますし、こういう意思表示されるのも大事なことです。
で、せっかくなのでファンの皆さんが「パチンコ化を反対」する理由ってなんだろうと調べたんですけど、一番多いのは「そもそもパチンコが好きじゃない」みたいな存在否定の意見。
これは業界が変えなきゃいけないイメージとかの問題だと思うんで、みんなで頑張りましょうってお話です。
次に目についたのが「原作(本人)のイメージを壊す」とか「演出で再現できないからやめてほしい」という意見。
パチンコ化することを全否定するわけじゃないけど「原作の魅力をパチンコにできるはずがないからやめてほしい」という指摘ですね。
たしかに、過去の機種を思い返せば
「競馬の有名ジョッキーがロボットに変化して馬と合体する演出」で話題を作った、「G1 DREAM」というびっくり機種(褒め言葉)もありました。
これは良い意味でイメージを変えた例だと思いますが、中には漫画やアニメなどのファンが「許せない」と思う演出になってしまった機種もあったかもしれません。
そこで、今回は「なぜタイアップ機の演出がどうしてイメージと違うものになってしまう」のか。
気になったので遊技機メーカーで開発などにも携わってきた業界歴30年以上の老釘師さんにパチンコの演出の作り方について聞いてみました。
パチンコの演出がタイアップとイメージが違うものになる理由とは?
老釘師:パチンコの演出作るのって大変なんですよ(笑)。2つの違うベクトルで演出に対して物言いが付くってことを覚えておいてもらいたいです。
1つ目は当然ですけどコンテンツの権利を持つ版元さん。タイアップ元となるコンテンツの「イメージを崩さないでもらいたい」とおっしゃるわけです。当たり前ですよね。
でも、パチンコはエンタメなんです。キャラクターが図柄を上に放り投げたり、キックで壊したりというアクション演出だって搭載したいんです。
ところが版元さんから「●●というキャラクターはそんな乱暴な動きはしない」という指摘を受ければ、そういうアクション演出は作れない。おとなしく図柄を撫でるような動きしかできなくなったりするんです。
この場合、原作ファンの方はイメージ通りだから良いと思うかもしれませんけど、パチンコファンからすると「演出が物足りない」と感じてしまうこともあるわけです。
版元さんが「イメージ通りに」とおっしゃってもパチンコならではのアクションなども取り入れたいというせめぎ合いがあって、その加減でタイアップ元のコンテンツが持つイメージとズレが生じることは少なからずあると思います。
それでも、版元さんの指示をなるべく考慮して作るだけならば、ファンの人たちに怒られることは少ないはずです。ところが「原作を観た(読んだ)ことがあるのか」とか「絶対に知らないで作っただろ」とかファンの方たちからの叱責はしばしば起こります。
それがもう一つのベクトル「パチンコの演出は公序良俗を守らなければいけない」というお話です。
パチンコは出玉性能などの検査を受けて合格したものが世の中に登場するのはご存知かと思います。その検査では、演出面のチェックも行われてるんですね。
これが明確な指標があるわけではなく、年によって判断基準が変わるんですよ。昔はアニメキャラの胸が演出で映っても大丈夫だったけど、今は当然ダメなわけです。
とあるパチンコ機で「主人公が校舎内をバイクで走る演出」を入れようとしたけど、それは「公序良俗に反する」となれば、どれだけ有名なシーンだったとしてもその演出は使えなくなってしまうのです。
結果として「原作のイメージと違う」なんて言われてしまうことにつながっていくのです。
エロ、グロ(残酷)、反社なものは全部ダメ
人気機種「北●」シリーズにおいて血の色が赤以外で描かれるのもそういう理由です。人気コンテンツでも「残虐性が高いカット」があるものは有名シーンであっても使えませんね。
なので、仮にですけど、もし「鬼滅の刃」がパチンコになったとしても、鬼に対して炭治郎が直接切り付けるような描写は作れないと思います。対決演出発展→対峙したところから、溜めて溜めて「ボタンプッシュ」で、すでに鬼が倒れている。たぶん、そういうシーンしか作れないでしょうね。
「山で水着」は公序良俗違反らしい
老釘師:例えばこれは本当にあった話ですけど、パチンコ機で「水着」の女性による演出ってありますよね。ビーチバレーしたり、サーフィンしたりといろいろな演出があると思うんですけど、シチュエーションが「山」だとNGになるんです。
「水着の女性が山にいるのはおかしい」という指摘で、どうやら公序良俗に反するようです(笑)。なので、水着の女性が映る演出は「海」とか「川」とか水辺であることが決まりになっているんです。
パンチラしたければ「宇宙へ飛ばせ」
老釘師:今は違う解釈になっているかもしれませんけど、一時期はちょっとしたお色気演出になりそうな「パンチラ」は地球上だと「公序良俗に反する」ということでNGでした。同じようにバズーカーとかで敵をやっつける。みたいな演出もダメ。だからみんな宇宙に行くんです(笑)。
なぜかというと、宇宙は「ありえない状況」だからファンタジーになるから(笑)。
なので、パンチラした女性キャラがバズーカーをぶっ放したいというような演出を搭載したければ、とりあえず「なんでもかんでも宇宙に飛ばす」のがセオリーだったのです(笑)。
原作のタイトルに「賭け」「賭博」などが付いていたら変更
老釘師:ご存知の方も多いかもしれませんけど、とあるタイアップの原作に「賭博●●●●●●」とか、「賭ケ●●●」のような名前の作品がありますよね。
パチンコは「娯楽」「遊技」なので、「賭博」とは言うと問題が…。
ということで、「弾球●●録●●●」とか、「蛇●夢●●●●●」とかにしなくてはいけないということになっているんですね。
事情があって原作と同じ名称が使えないということもあるんです。
ご本人映像がダメならアニメにしよう
老釘師:これまでも数々の著名人とのタイアップ機が出ていますが、基本的にはご本人たちにパチンコ向けの演出を演じてもらうのはハードルがとても高いのです。
なので、女性タレントの水着シーンをパチンコ機に搭載したいと思っても「実写はダメ」「アニメならOK」みたいなこともあります。
ファンの方からは「なんで実写じゃないんだ!」とお叱りを受けるかもしれませんが、どうしても実現できなかったというケースもあるので理解してほしいですね。
ということで、メーカーさんとしては、「版元」さんの意見を踏まえ、ファンの方に喜んでもらえるように機種を作っているのですが、
時には「公序良俗に反する」という理由で、カットしたり、変更せざる得ないことがあるんですね。
「原作とイメージが違う」と思う気持ちは十分わかりますが、ただ憤慨するのではなく「理由があって難しかったんだな」と
察してあげてもらえたら良いのかなと思います。
取材協力:老釘師
「老釘師」こと業界情報通E氏。某大手メーカーで営業本部長や開発などにも深く携わった経験を持つ。現在はメーカーを去り、遊技機開発会社でかつての経験を生かしながらキャリアを続けている。