藤商事グループのパチスロ開発は何が変わったのか?
シーンの変化が大きかった2022年末から2023年で、日工組メーカーの1つである藤商事グループがパチスロ機でヒットを連発させている。このヒットの裏側には何があったのか。PiDEA Xでは、藤商事の社内を取材し、要因を探ってみた。
ここ最近、集客ベースでも稼働ベースでもパチスロ業績が重要性を増してきているのはどこの店でも言えることだ。去年の今頃を思い返すと、6.5号機が出てきたばかりの頃は、まだまだパチンコがメインだった。それが今年に入ってスマスロが登場して以降、特に「L北斗」が出てからは一変、パチスロの業績が店舗全体の業績を左右する時代となっている。
コロナ前までは基本的には古い機械(≒旧規則機)の業績が良く、新しい機械(新規則機)は結果が振るわなかった。だから新台にそれほど力を入れなくてよく、すでに自店の看板となっている「バジリスク絆」「ミリオンゴッド凱旋」「沖ドキ」などに注力していれば良かった。
ところが、今となっては新しいパチスロ、すなわちスマスロを中心とした新台入替を積極的に実施しないと、この厳しい競争の時代を勝ち残っていくことは難しい。つまり、ホールは今まで以上に、機種選定に対して、真剣に取り組まなければならなくなっているのである。
これまで、大都、Sammy、ユニバーサル、北電子(順不同)を筆頭にパチスロシーンを牽引してきたが、基本的にその傾向は現在も変わっていない。しかし、2023年のパチスロシーンを改めて振り返ってみると、日工組系メーカーの台頭が目立っていた。中でも藤商事グループは大きくそのイメージを変えたと言える。
22年11月にリリースされた「パチスロとある科学の超電磁砲」は、稼働粗利貢献16週、23年4月導入の「Lゴブリンスレイヤー」は22週、7月導入の「パチスロ戦国†恋姫」は台数は少ないながらも21週で現在も貢献中であり、最新の11月導入の「スマスロとある魔術の禁書目録」も絶賛貢献中だ。
しかもそれぞれ同時期に出ていた機種名をみると、各メーカーのキラーコンテンツがずらりと並んでいる中でしっかりと結果を残している。パチンコメーカーが作るパチスロでもこれまで単発ごとにヒット機は出ていたが、今年の藤商事のように連続しているのはあまり見かけない。「藤商事=パチンコメーカー」というイメージを一新し、同社がリリースするパチスロ機にも注目せざるを得ないポジションになっている。何が変わったのか、取材してみることにした。
パチスロヒット機の量産要因は社内体制の変革にあった
最も優先したのはファン目線での機械づくり
今回取材班は、開発拠点のある東京開発事務所(東京都千代田区丸ノ内)を訪ね、常務執行役員の中村敏幸氏に話をうかがった。
PiDEA X取材班(以下略P) 最近はパチンコだけではなく、パチスロにもヒット機を多く登場させていますが、何か新しい取り組みをされているのですか?
中村氏(以下略中) 2018年『変わる挑戦』を重要課題に掲げ、社内一体となってさまざまな取り組みを実施してきましたが、パチスロにおいてもようやくその成果が出てきたのかもしれません。
P 以前がどのような状態で、それに対してどのような取り組みをされてきたのでしょうか?
中 最も優先したのは、ファン目線での機械づくりです。エンドユーザーであるファンが求めるものを理解し、それを商品化させるという基本的なところで、それに向かって開発・営業・支援部門が相互に連携をとれる体制づくりに挑戦してきました。
これまで弊社は、常に世の中に新しいものを届けようと、自分たちが考える「プロダクトアウト」の考え方が強い面がありました。もちろんプロダクトアウトには、顕在化していなかった潜在的なニーズを掘り起こすメリットがありますが、一方で市場のニーズに沿わない危険性もあります。弊社の強みである斬新性や革新性を残しながら、現在はパチスロ市場を研究し、今後ファンがどのようなものを求めているかを追求する「マーケットイン」の考え方にもチカラを入れるようになっています。当社には「我が社はパチンコの機械を売るのではない。パチンコ店の繁栄を売るのです」という社是がありますが、その基本に立ち返り全社を挙げて取り組んでいます。
P 意識だけではなく、具体的に行動が変化したようなことはどんなことがありますか?
中 当然ながら今までも実施していましたが、開発中試作機の段階から多くのファンに試打してもらい、その声を集め修正を繰り返すなど、最近の機種は特に作り込みを重視しています。
新しい取り組みでは、ファンの中でも特に版権や、パチスロの現状に詳しい方に集まっていただき、よりコアなお話しを伺う機会を増やしました。ヒット機のムーヴメントを起こす原動力になり得る情報感度の高い、いわゆる「イノベーター」や「アーリーアダプター」にあたる方とコミュニケーションを取ることで、詳細な市場評価のフィードバックを受けられるようになり、それが導入後の成績にも反映されてきていると考えています。
藤商事グループのここが変わった!
1.台数シェアの増加が顕著
藤商事グループが公開する決算資料を元に、パチスロ機の販売台数を年ごとにまとめたもの。もっとも大きなセールスは2014年度の4万4100台であり、「リング 呪いの7日間」であった。5号機の「ハーデス」や「沖ドキ」などが発売された年だ。2020年度は発売なしだったが、藤商事のパチスロ機の潮目が変わったのがまさにここ。その頃から開発体制の変革が功を奏し、21年度から徐々にシェアを拡大していった。22年度は、2万2825台に増えたし、23年度は2万7500台見込みとなっている。藤商事は、コーナーを作られる存在に躍進しつつある。
2.新開発体制の構築
遊技する機会が減ってしまわないよう業務として月に1回はホールで遊技する日を設けた。ファンの熱量を現場で体感してもらい、開発にフィードバックしてもらうことで、より良い機械づくりにつなげていく。また、若手主導のプロジェクトを組織し、誰でも積極的な意見が言えるような環境整備を実施した。
3.ファン試打会
こちらも開発中の機械を一般のファンを集めて試打してもらい、開発メンバーが直接意見を聞ける場を設けた会である。本文でも触れたが、藤商事が「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へと移り変わった最たる事例だ。ここで聞けた声を開発にフィードバックしていくことで、業績に安定感が出たと考えられる。
4.御坂美琴生誕祭
5月2日は「とある」シリーズの主要キャラである御坂美琴の誕生日となっている。上記はパチンコ機としての企画であるが、パチスロユーザーはこうした日付を非常に大切にする。その気持ちを直撃するプロモーションだ。ちなみに、インデックスは7月11日、上条当麻は3月25日。こうした活動は今後増えていくことだろう。
藤商事が開発してきた機種は、古くを遡れば「リング」というホラー系ジャンルを流行らせた功績がある。「リング」をきっかけに、他メーカーからもホラー系機種が発売されるなど、パイオニア的な一面もあるのだ。
また、最近でいえば、「とある」シリーズなんかもそうだ。パチンコ業界で慣れ親しんだコンテンツではなく、完全なる新規で大人気コンテンツを引っ張ってくるなど、最新のアニメ版権にも注力し、新しいファン層を取り込もうとしている。パチンコもパチスロも「とある」シリーズではヒットをさせているが、これ以外でも「ゴブリンスレイヤー」など、業界に新しいアニメ版権を引っ張ってきてヒット機をリリースした。
藤商事のパチスロ機は、出玉設計への強いこだわりを感じる。「レールガン」ではエンディング到達後に約70%で引き戻せるアルティメットループの部分に出玉を割り振っている。
また、「ゴブリンスレイヤー」は、いわゆるジェネリックゴッド系の機種だ。ユニバーサルの「ミリオンゴッド」をオマージュして、いくつものジェネリックゴッドが発売されてきたが、ヒットしたものはほぼなく、ジェネリックが出れば出るほど本家の価値が高まっていくという習わしがあった。しかし、「ゴブリンスレイヤー」だけが、その前例をブチ壊すことができた。
1セット100GのATで純増約2.7枚。「ラッシュが8回継続すると上位のアルティメットループ」というのも目指すべきところが分かりやすく稼働を促進した要因になったことだろう。
市場に投下されたばかりではあるが、「スマスロとある魔術の禁書目録」も、通常時からAT中までヒキのタイミングは重要なゲーム性であるが、まさに今年のトレンドがそこだ。インチキをされている感が少なく、レバーオンに力を込めたくなる台が人気であり、「スマスロとある」もそうした部分での評価も高い。
パチンコで培ってきた高い開発技術力を備えつつ、新規版権もゲーム性もトレンドも抑えている藤商事グループ。パチスロでヒットするのも頷ける話だ。