『聖地』グリンピース新宿本店 元店長が語る閉店の事情

2022.03.11 / その他

業界でも注目されていたパチスロ専門店が閉店

『聖地』グリンピース新宿本店
元店長が語る閉店の事情

 

6号機時代に突入し多くのパチスロ専門店が閉業の憂き目を見ることになった。かねてよりパチスロ雑誌ライターや動画演者などに頻繁に取材されスロ専の聖地とされてきた「グリンピース新宿本店」もまたその流れに抗うことができず、2022年1月31日をもって閉業となった。ここでは名物店長「どくまむし」氏に、閉店に至った経緯や事情について、また最終営業日の様子などについて語ってもらった。


漫然と続けるだけだったら不可能ではなかった

グリンピース新宿本店は時代を先取り「パチスロ専門店」として営業していた老舗店舗である。惜しまれつつも迎えた最終営業日は1月31日、旧規則機の撤去期限日である。今回の閉業に関して、旧規則機撤去の影響はどの程度あったのだろうか。取材に対し、どくまむし氏はこう答えた。

「もちろんそれも大きな理由の1つになっていますが、それがすべてというわけではありません。ある時期まで6号機だけの営業を行う方向で準備は進めていたのですが、実際問題として新規則機の稼働が伸びる気配がなく、各種規制緩和の話も具体的には出てこない。それで事態が好転するのはまだ先になると判断したのがまず1つ目の理由になります。そして次の理由として、コロナでの休業の影響が尾を引いていることが挙げられます。一時的なものであるにせよ、一度世間から『パチスロ』というものが消えると、お客さまの中から『パチスロを打つ』という習慣が消えてしまう。特に新宿に関しては世間の皆さまから厳しく見られる場所ということもあり、営業再開後もお客さまの戻りが悪かった。それらの事情を総合的に閉店の判断を下すことになりました」

最盛期には9店舗あったグリンピースも今回の新宿本店の閉店を受け2店舗にまで減ってしまった。だがグリンピースを運営する「株式会社ニュートン」はカラオケ店「パセラ」やカプセルホテル「安心お宿」ほか、レストランやパーティースペース、フォトスタジオなどを幅広く手掛ける総合レジャーサービス会社である。一般的な中小ホールに比べると全体の会社規模が大きい分、単純に資金繰りの悪化による閉店とは毛色が違う。これに関してどくまむし氏は「単純に続けるだけだったら不可能ではなかったかもしれない」と言いこう話を続ける。

「ただ、無理やり続けることが必ずしも良いことだとは思えませんでした。例えば従業員のモチベーション的にもそうです。おっしゃる通り弊社には他の部署もありますし、そこで従業員の能力を生かせるのであれば本人にとってもプラスになるかもしれません。一方で無理やり続けた場合、能力のある従業員を飼い殺しにすることになるかもしれない。それは避けなければならないことだと思いました。このパチスロ不況がいつまで続くのか、少なくとも出口が見えているのであればそこに向かって、という意思を持って続けていけたのかもしれませんが、現状それが不明なので、彼らのためにも厳しい判断をせざるを得ませんでした」 

 閉店時に店長を務めていた「どくまむし」氏。自店PRのために、さまざまなオリジナル動画コンテンツなどの仕掛け人としても業界では知られている。

 


4号機末期と今回の違いは「体力」の差

どくまむし氏が業界人としてパチスロ苦難の時代に立ち会うのはこれが初めてのことではない。4号機から5号機への時代の移り変わりと比べて、今の状況はどのように見えるだろう。

「当時も売上的な落ち幅は厳しいものがありましたが、4号機から5号機に移り変わる時期はホールも体力があったので耐えることができました。それから5号機初期の厳しい時代を乗り切るためコストカットなどを推し進め、ある程度できることをすべてやりつくした中で今回の6号機移行です。しかも今回は他にもいくつかのネガティブな要因が重なっているので、当時と今を比べると『今の方が辛い』と感じるホールは多いと思います」という。

5号機移行時は4号機時代が絶好調であった分、大規模な変革を乗り切るだけの体力があった。5号機時代になり、いくつかのヒット機種も生まれ、ユーザー数や稼働などにある程度の回復は見られたものの、全体の業績としては4号機時代に比べるべくもない。さらに今回は機械代の高騰や分煙化、消費税増税、そしてコロナ禍など、複数のマイナス要因がつづら折りになっている。いわばホールが変革を乗り切るだけの「体力」をつける余裕がないまま完全6号機時代に突入してしまった。併設店であればリソースをパチンコに寄せることが一番の解決策になるのは明白だが、パチスロ専門店の場合は巨額の設備投資費が必要になる併設店化を目指すより、店舗数を減らしてリソースを集中させる方がより現実的な選択となる。グリンピース新宿本店と同じく1月31日にて閉店したパチスロ専門店である「エスパス日拓渋谷スロット館」なども同様の決断だったのは想像に難くない。

ここまでパチスロの人気が低下した理由について、どくまむし氏は「有利区間の存在」と「払い出し枚数の低下」が、ユーザーにとって心理的なブレーキになっていると語った。

「新宿本店の場合はノーマルタイプに力を入れていたので『払い出し枚数の低下』は大きな枷になりました。また当然ですが現在のパチスロ全体の問題として『有利区間の存在』は非常に大きいと思います。有利区間があるうちはパチスロを見るお客さまの目が変わることはないかもしれません。スロ専にとって厳しい時代はまだ続くと思います」


SNSやYouTubeを利用したマーケティングの先駆的店舗

グリンピースといえばSNSを利用したマーケティングや、独自の動画コンテンツである『おまかせ緑豆(旧:ガ珍古グリンピース)』などを他社に先駆けて行い続けてきた、その道の先駆者でもある。長年の努力と継続した運営によりコンテンツのファンも多く抱えており、すでにグリンピースの歴史を語る上では決して無視できない存在になっている。それらSNSや動画コンテンツなどを利用したマーケティングについて、どくまむし氏に振り返ってもらった。

「SNSは単純に、もともと私がお客さまを含めたいろいろな方々と交流したいなと思って始めたのがきっかけでした。動画コンテンツの配信に関しても、それ以前から興味があったところで当時配属された別の店舗に当時としてもかなりレアな台がたくさんあるのを見て『これを利用して何かできないか』と思ったのが最初です。結果として始まったのがあまり知られていないレア台を、お客さまに広く知っていただくための動画配信ですね。なので特に会社からの指示があったりプロジェクトが先行していたわけではなく、私がアイデアを出して、それを会社が認めてくれた形になります。なぜうちが動画配信をいち早くやってお客さまに喜んでいただけたかというと、そういうチャレンジ精神を歓迎する社風というのが根底にあるからです」

グリンピース新宿本店の閉店の報はSNS上でまたたく間に拡散され、一店舗の閉店にまつわる話題としては異例のニュースとなった。なぜここまで話題になったのだろう。そこにはどくまむし氏が続けてきたSNSマーケティングや動画発信の影響はあったのだろうか。これに関して、どくまむし氏はこう答えた。

「もちろん店舗の持つパワーというのが前提にあるのですが、お知らせというのを広めることはできたのかなと思います。『閉店』といえばどうしても、誰にも知られずひっそりと寂しく終わっていく……というイメージがありますが、当店の場合は幸いなことにそういう形ではなく、いろいろな方に惜しんでいただいて、温かい気持ちで幕を閉じることができました。これはある意味では、SNSや動画コンテンツの1つの成果といっても良いかもしれません」

現在、グリンピース公式YouTubeチャンネルの登録者数は4090名。動画配信サイトの他、店舗情報を含んだ各種トピックスが確認できるランディングページでも動画閲覧が可能になっている。コンテンツ内ではグリンピースの店舗や機種情報のみならず、株式会社ニュートンが運営する他業態の店舗とのコラボ動画なども配信されている。このような試みは遊技業界では非常に珍しいと言える。

新宿本店が閉店後、それらの運営はどうなるのだろう。確認すると「今後も動画コンテンツの制作と発信は続いていきます」という答えが返ってきた。

 

 

 オリジナル動画「おまかせ!緑豆」。グリンピースは時代に先駆け生配信を始めた会社としてコンテンツのファンも多い。

 


6号機不振と旧規則機撤去を引き金とした閉店。

最終日には常連を含むたくさんのユーザーに囲まれた中で涙のマイクパフォーマンスを行った

 

最終日の営業状況と通っていた常連の声

最終営業日当日、グリンピース新宿本店で実際に遊技したユーザーに話を聞いた。都内在住のWさんは以前よく通っていた元常連である。職場を変えたことで新宿からは足が遠のいていたものの、閉店の話を聞き、久々に店を訪れたという。

「閉店の話はTwitterで知りました。お世話になったホールなので最後にどうしても打ちたくて向かいましたが、私が行った時は座れないくらいの混雑ぶりで驚きました。記念にワンプッシュだけ遊んで他に譲る方や、また動画を撮影している方も多く、いかに愛されている店舗だったかが改めて分かりました」

また埼玉県に住むHさんは遊技業界に勤務する女性。レア台が好きなHさんは当然グリンピース新宿本店にも足を運んでいたが、常連というほどではなかったという。閉店当日には一応店舗前まで行ったものの、混雑した様子を見るにつけ、そのまま打たずに帰ってしまったそうだ。理由をたずねると彼女はこう答えた。

「私が無理に打つよりも、普段から通っている常連さんに少しでも長く打ってもらいたいと思いました。グリンピースといえばレアな機種を長く大切に使ってくださるのでファンの方の愛もとても深いイメージです。なので当日は記念撮影だけさせてもらって、場の雰囲気を味わうだけにしました」

WさんやHさんの話を伝えた上で最終営業日の状況について聞くと、どくまむし氏は当日の様子をこう振り返った。

「まずは本当にありがたかったです。そして、反響の多さにびっくりしました。常連の方はもちろん、そのお客さまのように以前よく来てくださっていた方やたまに来られていた方が、またライターの方や動画演者の方など、たくさんのお客さまにご来店いただけました。たくさんのメディアにも取り上げてもらい感謝の言葉しかありません」

どくまむし氏はグリンピース新宿本店閉店後、別部署に移動となった。今後はパチンコホールに限らず、レジャー関連の店舗開発業務に従事することになる。具体的に何をするかは今後徐々に詰めていくとのことだった。

同店は営業続行も不可能ではなかったが、パチスロの不振や社員の将来などさまざまな事情を勘案した上で「閉店」の選択をした。コロナ禍を含む多くの要因の中で苦渋の決断を下したホールは全国にあり、また今後同様の道をたどる店舗が続くことは想像に難くない。言わずもがな引き金となったのは旧規則機の撤去であるが、それ以前に「6号機不振」の影響があまりに大きい。スロ専受難の時代はしばらく続くだろう。

 

 

最終営業日、閉店時のアナウンス。
「最後まで残った常連のお客さまから温かい拍手があり、とても良い形で幕を閉じることができた」とどくまむし氏は語る
(写真はYouTubeグリンピース公式チャンネル動画からのキャプチャより引用)。

 

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